ホットミルクを飲む話2
懐かしい味
パカッと冷蔵庫を開ける。ひんやりとした冷気が指に触れた。
俺は迷わずドアポケットに入っている瓶を取り出してテーブルに置いた。瓶には白い液体が入っている。
つい先ほどバジルとどちらの身長が高いかで口論になったばかりだった。数ミリしか変わらないというのに、あいつは満面の笑みで特務クラスの連中に「オレの勝っちー!」と触れ回っていた。むかつく。あいつのしっぽを踏んづけてやりたい。
グラスにとぽとぽと液体を注ぐ。まずは一杯。ごくごくごくごく。二杯目にいこうと思ったらグラスの半分程度で無くなった。ちっ。
イライラしながらすべて飲み干すと、さらに俺を苛つかせる奴が現れた。
「……ビクトル君、全部飲んだの?」
空になった瓶を見つめながらピエロ・ストームスが言う。
「あ? 飲んだら悪いかよ」
「いや……、別に構わないけど」
もごもごと歯切れが悪いピエロ・ストームスを見て、俺は眉間に皺が寄るのを感じた。
──なんだこいつ。これを飲みに来たのか? 確かこのミルクにはこいつ専用みたいな噂もあったな。でも名前書いてないし、だからこれ、共有物だろ。書いていない奴が悪い。
「もしかしてこれ飲みに来たわけ? だったらごめんね~? 全部飲んじまったわ」
渾身の人を馬鹿にしたような表情で、嫌みったらしく俺はあいつに言ってやった。身長が伸びて、こいつに嫌がらせも出来るなら一石二鳥だ。少しくらい悔しがればいい。キレて化けの皮が剥がれる方が俺は嬉しいけど。皆から失望されてしまえばいいのだ。
そんな俺の思いなどまったく汲み取れないらしいピエロ・ストームスは「明日になれば新しいのが届くよ」などと呑気に話していた。
「……ビクトル君、味、どうだった?」
むかつく男だと思う。本当に。
「くそまじぃ」
俺のことなんて歯牙にも掛けない。だから俺は、こいつが心底嫌いだ。
◇◇◇
自室に戻ると、俺の不機嫌さを察したバジルに、さっきのことを話す羽目になった。
「え!? ビル、あのミルク飲んだの!?」
「はああ? なんだよ。飲んじゃ悪いのかよ」
少し飲み過ぎただろうか。ちゃぷちゃぷ鳴る腹を気にしながら俺は答える。
「いや、別に悪かないけどさあ。……おいしかった?」
「ふつう」
マジで!? オレのときすげー味したけど!! なんてバジルは騒いでいたけれど、別に何も変わらない。いつも通りだ。
俺は何も、あの男に影響されて変わったりしない。
「でもなんか、懐かしい味がしたな」と呟くと、「ふうん」と返ってきた。
afterword
いい兄さんの日とはかけ離れたピエロとビルの話
2021.11.23
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