マーティンとウザキ

清々しくも毒々しい

「濃厚流動食も、点滴も、採血も、検査ももう嫌だ」

「……俺に言うな」

 ウザキが無愛想にそう答えると、珍しいアースアイを持つマーティン・ヨハンソンが、ベッドの上で力なく笑った。

 マーティンはかれこれ数ヶ月はこのベッドの上で生活している。体調が悪くとも、筆記の成績が落ちないのはさすがと言うべきか。こんな状況の彼からも首位が奪えない己が情けなくなる。

「悪いね、ウザキ。でもたまには弱音くらい吐かせてよ」

「もっと適任なのがいるだろ」

 銀髪で妙に顔が整ったあいつとか、とウザキは思った。自分なんかよりもよほどマメにここに通っているのだろうけれど。

「……コーラスの前では、格好良いままでいさせてよ。それもいつまで持つかわからないけど、さ」

 ぎゅっ、と足を抱え込みながらマーティンが呟く。

 この男にもそういう俗めいた思いがあるのかと、ほんの少し驚かされた。

「僕がこんなこと言うと、ウザキ以外は気にしちゃうだろ。君はほら、気にしないから」

「おい。どういう意味だ、それは」

 あんまりな言われようにウザキの眉間に皺が寄る。

「ごめん、ごめん。でも君のそういうところに僕は救われてるんだよ」

 くすくす、とマーティンが笑う。そして、目を細めて窓の外を見つめた。

「心配してもらえるのは嬉しいけど、辛くもあるからね……」

 マーティンの言葉に何も応えることができないまま、ウザキは「また来る」と病室をあとにした。

 

 ──次こそ。今度こそあいつに勝ってみせる。

 コツコツ、と廊下にはウザキの足音だけが響いていた。

afterword

ウザキには弱味を見せるマーティンと、マーティンへの下剋上にふつふつと燃えるウザキ
2022.01.30

message